「デザインのひきだし 27 現代・印刷美術大全」

 

はじめに

 

デザイン書や美術書を中心に、ビジュアル性・実用性に重点を置いた書籍出版を行うことで知られるグラフィック社。1963年に設立した、半世紀以上の歴史を持つ印刷・デザイン業界の老舗です。

 

そのグラフィック社は、定期的に「プロなら知っておきたいデザイン・印刷・紙・加工の実践情報誌」と銘打って「デザインのひきだし」というムックをシリーズで発行しています。

 

「デザインのひきだし27」の特集は「現代・印刷美術大全」。日本全国の印刷加工会社の技術を結集して、丸々一冊、印刷作品の現物を100枚以上挟み込んだ印刷加工見本帳となっています。

 

「デザインのひきだし」は、全国の印刷技師やグラフィックデザイナー、そしてアートディレクターや写真家など、印刷業界・印刷関連業界のプロに愛読されていますが、今回の「現代・印刷美術大全」は特に評価が高く、このタイプの専門情報誌としてはかなりの発行部数といえる10,000冊が、わずか2週間で完売しました。

 

そして、この「現代・印刷美術大全」には、株式会社河内屋の作品が5点収録されており、河内屋の技術レベルの高さを全国的にアピールする好材料となりました。

 

そこで、代表・國澤良祐による収録5作品の見所紹介と、活版を担当した佐藤俊介による技術解説をお届けしたいと思います。

 

 

「現代・印刷美術大全」にかけた想い

 

左:國澤良祐(株式会社河内屋 代表取締役社長 プリンティングディレクター)

右:佐藤俊介(株式会社河内屋 印刷担当)

 

――まず、「現代・印刷美術大全」に出品することになった経緯を教えてください。

 

國澤 「印刷美術大全」は、日本で近代的な印刷が始まった明治と昭和初期の2回、当時の印刷業界団体が発行したことがあるという記録が残っています。現代のようにテレビやインターネットが普及している時代ではありませんから、印刷というのは、高精細な視覚情報を伴うマスメディアとして非常に高い価値を持っていたのでしょう。

 

その、昭和初期に発行された「印刷美術大全」を、たまたま入手したグラフィック社の編集長から、「現代版の『印刷美術大全』をぜひとも作りたい!」という打診を受けて協力することになったんです。

 

――印刷技術そのものは、当時より現代のほうが遥かに進んでいるのではないですか?

 

國澤 確かにそういう面もありますが、一概には言えません。というのは、現代の印刷物はオフセット、輪転、そしてオンデマンドやプリンタなど、「こういう印刷物はこうやって刷る」というパターンが決まっているわけです。変わったことをやるとコストも時間もかかる。印刷技術が確立されてしまっているために、変わったことが非常にやりづらい。

 

「きれいな印刷物をいかに早く安く印刷するか」という点では、現代の印刷技術は非常に優れているのですが、昔、まだ技法も手探りで、「なんとか、もっとすばらしい印刷物が作れないか?」と印刷技師たちがしのぎを削って技術を競い、時間も予算もしっかりかけていた時代の印刷物というのは、現代の印刷が忘れかけている迫力、力強さ、奥行き、質感といった魅力にあふれています。

 

――それを現代に蘇らせたかったと?

 

國澤 そうなんです。「現代の印刷技術の粋を集めた、後世に残る平成版の『印刷美術大全』を作りたい」と説得されまして。その熱が私にも乗り移ったというか…(笑)。それで協力することになりました。

 

――いわゆる「出品料」のようなものを払って掲載してもらうのですか?

 

國澤 「本で紹介してやるから金を出せ」というようなビジネスではありません。それでは印刷技術の粋は集まらない。名前を売りたい会社の作品ばかりが集まってしまう。

 

この本は、グラフィック社が「これぞ」と目をつけた印刷会社を50社ほど選定して、「作品を出してほしい」と依頼して作られたものと聞いています。その50社の中に河内屋が入ったのは光栄ですね。

 

その代わり、この「印刷美術大全」というのは、印刷見本ですから当然といえば当然ですが、「あなたの会社で10,000冊分、作品を印刷して所定の製本所に枚葉(平判にして巻いていない紙)の状態で納品してくれ」という指定があったんです。ですから、印刷費はすべて自社持ち。原価ベースでも莫大な経費がかかりました。

 

――それでも出品しようと思った理由は?

 

國澤 印刷業界の人間が、グラフィック社に頼まれては嫌とは言えません(笑)。非常に名誉なことですから。それに、自分たちとしても、実験作品として世間に出したい技術があった。もちろん宣伝にもなると思いましたが、それよりも現在の河内屋の技術や取組みを世間に見てもらいたかった。そういう気持ちが一番強かったです。

 

 

作品1 オフセットFMスクリーン印刷

 

作画・デザイン:宮川崇

印刷:見目崇志

使用紙:アヴィオン(ハイホワイト)四六判Y目135kg

 

――これは、河内屋が得意とする「FMスクリーン印刷」ですね?

 

國澤 そうです。20ミクロンのドットで表現する手法で、一般的なAMスクリーン印刷に換算すると400線に相当します。

 

トーンジャンプやムラのないデリケートなグラデーション。

 

――FMスクリーン印刷ですから網点の細かさは当然として、このグラデーションはすばらしいですね。それから、この色。この色はプロセスインキ(※1)だけで出せるのですか?

 

國澤 いや、出ません。4色印刷ですが、実はプロセスインキに蛍光色を混ぜて色域を広げています。

 

――蛍光色?あれは透明インキでしょう。透明インキでこうした効果が得られますか?この地平の緑や山の赤。いわゆる「日本の伝統色」の「萌葱色(もえぎいろ)」とか「弁柄色(べんがらいろ)」に近いのですが、そういう特色インキとも違って、もっと色が深く存在感を感じます。

 

國澤 そう見えますか?だったらこの試みは成功です。普通は蛍光色を使うと色の濃度が下がるのですが、プロセスインキに蛍光色を混ぜると発色が良くなり、色に深みが出ることに気付いたんです。

 

それに気付いたのは、あるデザイナーさんが刷り出しに立ち会ったときのことでした(※2)。「もう少し色を加えられないか?もうちょっと色を追い込みたい」と言われて、蛍光色版を加えて6色にすることも考えたのですが、「インキ自体を調整して色の深みや色域を広げたらいいんじゃないか」と思い付き、やってみたらしっくりきたんですね。

 

――オレンジから「鴇色(ときいろ)」のあたりのグラデーションは、FMスクリーン印刷といえどもトーンジャンプ(部分的に境界ができ、縞模様が見えてしまう状態)が発生しやすいところですが、きれいに仕上がっていますね

 

國澤 これも蛍光色のおかげですね。光がにじむ感じになって、スッとなじんでくれるのです。トーンジャンプとまではいかなくても、こういう部分はムラっぽくなりやすいのですが、蛍光インキの光のおかげでこういう表現が可能になっています。特色版を使わなくても、4色でもやろうと思えばかなりのことができる。それが表現できたのがこの作品の収穫です。

 

※1 プロセスインキ:CMYKの4色のインキを1セットにし、掛け合わせによってほとんどの色が再現できるように組み合わせられたもの。オフセット印刷・輪転印刷・オンデマンド印刷・カラープリンタなど、ほとんどの印刷物の基本的なカラー。

 ※2 刷り出しに立ち会う:印刷開始直後に、実際に印刷したものを確認すること。印刷物の「現物」を確認するため、色校や本紙校正よりもさらに正確な色味・質感のニュアンスが確認できる。

 

 

作品2 原色版印刷

 

作画・デザイン:宮川崇

印刷:佐藤俊介

使用紙名:特Aクッション 0.6mm

 

――この絵柄は、FMスクリーン印刷の作品と同じものですね。

 

國澤 そうです。対比しやすいように、まったく同じ絵柄を選びました。

 

――原色版印刷というのはどういう技術なのですか?

 

國澤 原色版印刷というのは、凸版方式でプロセス4色を掛け合わせる活版印刷です。今回は1ミリ厚の銅版を使いました。線数でいうと、AMスクリーン印刷の65線に相当します。

 

――キメの細かさでいえばFMスクリーン印刷のほうが遥かにきれいですが、教会の天井画などを思わせる、シルクスクリーン印刷のような素朴な力強さを感じますね。

 

國澤 オフセット印刷の網点を銅販の凹凸で表現しようというのですから、線数的には限界があります。ただ、この印刷は単色機でC、CM、CMYと、インキを1色ずつ刷り重ねていくんですよ。だから非常に奥行きのある、ボリューム感が感じられる印刷になります。

 

――活版ということは、デボス効果(※3)も生まれるんですね。

 

國澤 そうです。印圧を変えることで色合いも変わってきます。また、活版で各色のインキを紙に押し込んでいくので、オフセット印刷などとはインキの盛りがまるで違うんです。それとデボス効果が合わさって、想像以上の効果が出ました。絵画のような深みや奥行き、そして絵柄が紙面から飛び出してくるような迫力。まだこれは65線のお試し版のような作品ですが、大きな「原石」を見つけた手応えを感じています。

 

 

――今までにない新しい印刷技術ですね。

 

國澤 いや、昔はあったんです。新しいというより、忘れられていた技術です。

写真家の土門拳さんが昭和30年代に発表した「古寺巡礼」という写真集があるのですが、これが「日本の原色版印刷の最高峰」との呼び声が高く、それは迫力のある作品に仕上がっています。

 

また、大阪の工文社という会社は、今から90年も昔に原色版印刷で250線という高精細印刷を実現しています。

ただ、原色版印刷というのは製版に時間がかかり、1色ずつ刷り重ねていくことから非常に手間がかかるんですよ。オフセット印刷のほうが遥かに効率はいい。このため、原色版印刷はオフセット印刷の普及とともに廃れていきました。しかし、印刷物としての仕上がりでいえば、原色版印刷はオフセット印刷に勝るとも劣らないと私は考えています。

 

――なぜ、原色版印刷を手掛けようと思ったのですか?

 

國澤 ある方の紹介で、B3サイズまで印刷できるハイデルベルグ社製の活版印刷機が手に入ることになったのがきっかけです。シリンダー方式で版全体に均質な圧がかけられ、網点もムラなく表現できるというメリットがあります。もちろん中古なのですが非常に程度がいい。

 

B3が刷れるのであればポスターも刷れるし、2丁付けもできる。まだその機械は、オーバーホール中で手元にないのですが、それが手に入るなら、ずっとまえからやってみたかった原色版印刷に本格的に取り組んでみようと思いました。

 

手前からC版、M版、Y版、K版。素材は1ミリの銅板。
これを単色機に1版ずつセットし、4回刷り重ねる。

 

エッチングで作られた銅版の網点。今回は65線だが、さらに高精細な網点を作ることも可能。

 

――昭和の技術を現代に復刻させたわけですね。

 

國澤 復刻させただけではつまらない。まずは先人が築いた原色版印刷の技術をしっかり私たちのものにしてから、さらに発展させたいと思っています。

 

――実作業の中心的役割を果たしたのは佐藤さんですが、やってみたご感想はいかがでしたか?

 

佐藤 今回の場合はすでにFMスクリーン印刷による印刷物が先にあったので、その色味に合わせていくという作業が中心でした。まずはCMYKの各色を、オフセット印刷で分色した物を見ながら色の濃度を合わせていきました。

 

活版用のプロセスインキなどというものはありませんから、その都度調合していくわけです。単色の色合わせができたら、次にCとMの2版を掛け合わせた物を見て色を合わせ、次にCMYの3色を掛け合わせた物を見て色を合わせて…という風に、原色版印刷の色をどうやったら再現できるか研究しました。

 

一番おもしろかったのは、版を重ねる度に完成に近づいていく過程ですね。まさに「プロセス印刷」という言葉どおり、プロセスを一つひとつ踏んでいくことが非常に重要です。そして最後にスミ(K版)で押さえる。

 

これはやってみてわかったのですが、1版ずつ刷り重ねていくので、最初の色よりもあとの色のほうが、押し込みが強くなるんです。そうした点も考慮しながらインキの濃度や印圧を調整していきました。

 

――この作品を作り上げた手応えは?

 

佐藤 非常に多くのことを学ぶことができましたが、やはりこれはまだ実験作品です。この技法を極めて、次は写真集や写真展などを手掛けてみたいですね。

 

國澤 佐藤君は活版を手掛けるようになってまだ3年ですが、この若さでここまでできる印刷技師はそういないんですよ。非常に大きな期待をかけています。これからはフォトグラファーなどのアーティストと組んで、どんどん原色版印刷の作品づくりを経験してほしいんです。

 

佐藤 僕はまだ、原色版印刷に関して「これだ!」という確信がつかみきれていません。「これかな?」というものはあるけれど、いろいろなタイプの絵柄を、もっと数多く手掛けないといけないと思います。

 

國澤 原色版印刷というのは、色だけに限らず、全体的に表現力が豊かな印刷技術です。「写真を手掛けてみたい」と思う理由がそれで、原色版印刷で写真作品を刷ったら、高精細印刷とはまた違った側面を表現できるんじゃないかという予感があります。

 

ただ、どんな写真をどのように表現すれば良いのか。線数は?色は?紙は?印圧は?と考えていくと、判断するための経験が圧倒的に足りない。その経験を、佐藤君には積んでほしいのです。

 

――高精細印刷は、実用的な意味では「もうこれ以上高精細にしても仕方がない」というところまで来ているように思います。しかし、原色版印刷の復活によって、新たな印刷表現の手法が増えたということでしょうか?

 

國澤 そうですね。原色版印刷はこれから5年10年かけて深掘りしていくだけの可能性を秘めている技術だと思います。コストとスピードありきの印刷を超えて、表現作品としての印刷を確立するためには、原色版印刷は強力な武器となるでしょう。

 

現代はスマホなどのデジタルツールが全盛ですが、印刷物は、ディスプレイにはない「豊かさ」や「贅沢さ」を表現できます。河内屋はそういう作品を提供していきたいんです。

 

※3 デボス効果:活版印刷は、紙に版を直接押し当てることで紙に自然な凹みが生じ立体感が得られる。その効果のことをデボス効果という。デボス効果による立体感を意図的に印刷表現に組み込める点が活版印刷の大きな魅力だといわれている。

 

 

作品3 活版印刷(強圧デボス)

 

作画・デザイン:宮川崇

印刷:佐藤俊介

使用紙名:特Aクッション 0.6mm

 

 

――これも活版印刷ですが、原色版印刷とは全然趣が違いますね。

 

國澤 これはスタンダードな活版印刷ですね。網点ではなくベタ面を使っています。原色版印刷は実験的な作品ですが、こちらは河内屋の「こなれた技術」です。1ミリ厚のマグネシウム版の凸版を用い、特色3色でクッション紙に活版印刷をしました。クッション紙を使ったことで、活版特有の強圧による凹みがイラストにしっかり陰影をつけています。

 

――絵柄とも相まって、なんともレトロな雰囲気を演出していますね

 

國澤 活版印刷というのは「時代感」を表現できる希有な技法なんですね。時代感が表現できる印刷技法といえば、これに勝るものはないと思います

 

――なんだか、映画や演劇のポスター・パンフレットにしてみたい作品です。

 

國澤 ええ。本の装丁にしてもおもしろいと思います。高精細をいくら追求してもこの世界にはたどり着けない。「デジタルでは行けない世界」が活版印刷にはあるんだということを言いたくて、この作品を「印刷美術大全」に出品しました。

 

 

作品4 バーコ印刷

 

作画・デザイン:宮川崇

印刷:宍戸祐樹

使用紙名:シャインフェイス 四六判Y目180kg

 

 

――このシュールな4コマ漫画は…?

 

國澤 今回の5作品は、いずれも宮川君という社員のアートディレクションによるものなのですが、これも彼の内面的な世界を描いたということです。ただ、「印刷美術大全」はあくまでも印刷技術・印刷美術を見てもらうための物なので、この作品のストーリー性や作品性云々というよりは、「細い線で緻密に構成された絵」がほしかったんです。

 

――バーコ印刷というのは、印刷物の表面に樹脂を盛って、加熱して盛り上げ、立体感を得る技法ですよね?

 

國澤 ええ。立体的な文様やテクスチャが表現できるということで人気が高い技術です。ただ、もうすっかり世間に普及してしまった技術なので、「ウチもバーコ印刷ができます」というようなレベルでは「印刷美術大全」に出品する意味がありません。「バーコ印刷という技術を使って、どんな新しい表現ができるか?」というのが今回のテーマでした。

 

――確かに一般的なバーコ印刷とはかなり印象が違いますが、これは…?

 

國澤 まず、オフセット印刷で線の部分を普通に印刷します。そして、その版をニス版に使って、線の上にぴったりラメ入りのパウダーを塗布して熱処理をしました。こうすると線がキラキラ光るんです。

 

細い線の上だけにラメ入りパウダーを塗布したことにより、線がキラキラ輝く。

 

――確かに!こういうバーコ印刷は見たことがありません。

 

國澤 ラメ入りバーコは人気が高いのですが、実は、ベタ面に加工してもゴミがついているようにしか見えないんです(笑)。線だと、線も生きるしラメも生きる。だから「ラメを使うときには絶対に線画にしてくれ」と僕が注文を出しました。それを聞いた宮川君が「線画だったら、いっそ4コマ漫画にしようか」と思い付いたようです。

 

――線もきれいですが、文字もキラキラして人目を引きますね。可読性も損なわれず、しかも下品にならない。

 

國澤 だから、この技法はレストランやカフェなどの手書きメニューやショップカードなどに非常に好評なんですよ。それから、経営者の方が「いつも輝いていたい」などとゲン担ぎで名刺に使われることも多いです。

 

――わかるような気がします。そして、紙がパールであることも重要なポイントですね。

 

國澤 ええ。パール紙の質感があってこそ、キラキラが映えるんですね。この紙を選んだのは私ではなく、現場の判断です。うちのメンバーはみんなそういうことがわかっていて、黙っていてもこういうことをやってくれるまでになりました。

 

――印刷工程が、単なる工業的な作業ではなく、ちゃんとクリエイティブであるということですね。

 

 

作品5 箔押し+フロッキー印刷

 

作画・デザイン:宮川崇

箔押:佐藤幸彦

印刷:川島今日子

使用紙名:スペシャリティーズNo.761 650×950mm Y目19kg

 

 

――ホログラム紙に全面箔押ですか。しかもこの図柄だと、ちょっとしたムラも許されませんね。

 

國澤 この作品は、技術面でいうとムラ取りに注目していただきたいんです。ちょっと見には「キラキラ光ってきれいだな」と思うだけかもしれませんが、ホログラム紙ですから、見る角度によってコバルトブルーやエメラルドグリーンに光が変化します。当然、そういう見方をしてもらう前提ですから、ちょっとした箔のムラも命取りになるんですね。

 

――見る人が見ればゾッとする絵柄なんですね。

 

國澤 ゾッとするかどうかはわかりませんが、相当、技術屋泣かせには違いないと思います(笑)。

 

――中央の黒い鳥のように見える部分はフロッキー印刷(植毛加工)ですね。

 

國澤 宮川君に言わせると「ブラックホールを表現した」とのことですが、この箔押にフロッキーの組み合わせはおもしろいと思いませんか?

 

――ええ。フロッキーはフェルトのような厚みと柔らかい手触りが魅力ですが、こういうビジュアルの中のワンポイントとして使うと、その対比がとても印象的ですね。そして、フロッキーの部分がよく光を吸収するので、確かに「ブラックホール」と言われると、そうかなと思います。これも新しい試みですね。

 

國澤 技術自慢だけで終わりたくないんです。もちろん印刷会社にとって技術は生命線ですが、それだけではおもしろくない。デザイナーやクリエイターの皆さんに寄り添えないし、対等なパートナーとして仕事をしていくことができない。「こうしてくれ」と言われて、「言われたとおりにやりました」では創造性がないんですね。

 

河内屋は、印刷クリエイターとして仕事をしていく会社です。デザイナー、アートディレクター、アーティストと同じ目線から、印刷物という作品をいっしょに創り上げるクリエイティブパートナーでありたいと思っています。

 

今回の5作品は、いずれも河内屋の印刷技術をアピールするだけでなく、印刷というフィールドで私たちが何をやろうとしているか、どんな考えで印刷に取り組んでいるかということを、世のクリエイターに伝えたいというコンセプトで出品しました。

 

 

印刷アーティストを排出する環境に目指して

 

――実験的な作品もあり、河内屋ならではの技術をベースに新しい表現に取り組んだ作品もあり、バラエティに富んだ5作品となりましたね。

 

國澤 「まとまりがない」「何がしたいのか見えにくい」と言われないか不安だったのですが、幸い多くの方にご理解いただけたようです。「『印刷美術大全』を見た」と言って、全国から問い合わせや引き合いが来ています。

 

原色版印刷もそうですが、日本の、そして世界のそうそうたるアーティストと組んで、新しい印刷作品を発表していくのが私の夢です。そのためにはまず、独創的で高いレベルの技術、そしてその技術を使いこなすためのセンスやアイディアが欠かせません。若い社員のためにも、そうしたクリエイティブな環境をしっかり整えてあげることが経営者としての私の仕事だと思っています。

 

もちろん、私もまだまだ現役の印刷クリエイターですから、自分自身の作品にもさらに力を入れていくつもりです。しかし、それと並行して技術や印刷に向かう姿勢・考え方などを若い世代にしっかり引き継ぎ、発展させてもらいたいと思っています。

 

印刷アーティストとして、世界に羽ばたくような人材が河内屋で育ってくれれば最高ですね。

 

 

 

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